大村市九条の会

会報 第14号

発行:2006年8月
高校生からわかる日本国憲法の論点(伊藤真 著)紹介

護憲改憲を論じる前に、必ず知っておくべきこと ―「はじめに」より
 憲法改正論議がメディアをにぎわしています。世論調査では改憲に賛成する人が6割を超えたと報道した新聞もあります。しかし私には、残念ながら政治家も含めて多くの人々が、憲法の本質をわかって議論に参加しているとは思えません。

 憲法の根本的な意義・役割とは何か。それは「権力に歯止めをかける」ということです。そのことは小学校でも中学でも高校でも、教えられていません。教科書にも出てきません。しかしこれは、憲法学のもっとも基本的な常識なのです。

 「法律は国民を縛り、憲法は権力を縛る」。だから、日本国民に憲法を守る義務はありません。そして、ときに憲法は、民主主義を制限することもあります。

 そういう、憲法学の最小限の常識を知らずに、子々孫々まで影響のある改憲を行おうとすることは、たいへん危険なことに思えます。

あなたはまだ憲法を知らない
 20××年、×月××日。日本国憲法改正国民投票の当日。
所定の投票所に行くと、選挙管理委員会の職員から投票用紙をわたされます。

 書くのは〇か×か、どちらか。ほんの数秒ですむことです。それを投票箱に入れれば、あなたは日本国の主権者として、歴史上初めて直接的に主権を行使したことになります。

 2005年5月の憲法記念日にあわせて実施された新聞などの世論調査の多くは、憲法改正に「賛成」と答える人が六割を超えたと報じています。国民投票のときにも皆がそのように考えて投票したら、過半数の賛成を得て、憲法改正案は可決されることになります。

 でも、あなたは本当に自分自身の頭で考えて、〇か×を記入できるでしょうか。たとえ自分ではよく考えて決めているつもりでも、憲法の本質を誤解してはいないでしょうか。また、「まあいいや、適当に〇をしておけば」と思っているあなたは、憲法が変わることで、あなた自身の今の生活も大きく変わるかもしれないとわかっているでしょうか。

 世論調査の結果だけみれば、多くの人が現行の憲法に何らかの不満を感じているようです。でも私には、不満を持つ以前に、そもそも憲法が自分たちの生活とどのように関わっているのかを、自分の問題として理解していない人が多いように思えてなりません。何より「憲法とは何か」、すなわち憲法とは「国民を縛るものではなく、国家権力の行使に歯止めをかけるものである」という近代憲法の大原則を知らない人が多い。

 ところが、マスメディアや政治の場では盛んに改憲論議が行われており、かつては机上の空論としか思われなかった憲法改正が、現実のものになりつつあります。憲法は、その国の国民の生き方を大きく左右するものです。その決定に関わるなら、その重さに見あった十分な準備が必要です。

 投票する国民それぞれがしっかり勉強しておかなければ、誰か声の大きな人に従うことしかできないでしょう。でも、自分自身の生き方を、他人の後ろをついていくようなやり方で決めていいものでしょうか。・・・・           (前掲書第1章より)