寄稿文 雑感(その2)


掲載日:2016年9月25日

雑感(その2)

おとうさまごめんなさい

  朝鮮南部のある学校二年生(15歳)の春に手術をしてしばらく入院し、退院後は自宅で静養する ことになり、退院間近の日に仕事を休んで父が迎えに来てくれました。

  入院中の私は、退院のときは母に来てもらいたいと思ってはいたものの、小さな弟と妹がいるので、 母が来るのは難しいと分かっていました。

  でも、がっくりしました。

  病室を出て玄関に着いた父が、うしろをのそのそと歩いている私を振り返って「ゲンカンはどこ?」 と聞きました。

  そのときの自分をはっきり覚えていますが、玄関に立っている父をにらみつけ「そこッ」とどなりま した。そのとき父は「うん?」というような表情をして、しばらく立っていましたが、外に出ました。

  もともと口数の少ない父と、反抗的な気持ちを捨てきれずにいた私は、殆んど言葉をかわすことなく、 一泊二日の旅を終え家に着きましたが、その途中で、ハッとしました。

  玄関にいるのに「玄関はどこ?」と聞くわけはなく、あの言葉は「外科」だったのだと胸がつぶれそ うになりました。

  父としては、お世話になった外科の先生にお礼を申し上げて病院を出たかったのだ、とわかったので す。  その後の長い人生でも、二人とも、そのときのことを口にすることは全くなく、私は思い出すたびに 天国の父にあやまっています。

2016年9月25日  寄稿 T・Y 氏(大村市在住)