休  憩  室

小さな泉  ―微笑むファシズムー

小さな泉    ―微笑むファシズムー

森ぶんめい

長い間、炎天下を歩きつづけ
人々はのどが渇いていた
くらしの貧しく空腹でもあった
人々が歩いて来た道のりには
草木一本なく、土ほこりのなか
多くのしかばねが累々と続いていた

と或る日
先頭のひとりが
はるか前方に何かを見つけた
はじめは逃げ水かとも思われたが
人々が近づくにつれて
それはしだいにその姿を現した

よく見ると
それは小さな泉であった
もじゃもじゃの白髪の男がほとりに立ち
微笑みながら腕をふりあげ
人々になにやら
話しかけていた

すると人々は
「ユーセーミンエーカ」
「ユーセーミンエーカ」
なにかしら呪文のようなことばを
二言三言唱えると
水を汲んでごくごくと飲み干した

長いこと炎天下を歩き疲れた人々も
冷たい水を欲していた
と、一人の男が
いきなり泉にかけより飛びこむやいなや
白髪の男に引きずられ
ほとりに投げ出された

もじゃもじゃの白髪男が
「ユーセーミンエーカ」
「ユーセーミンエーカ」と叫ぶと
どこからともなく軍服を着た男たちが現れ
たちまち人々をけちらした

泣き叫び
助けを求め
次々に倒れていく人々を
彼はさも愉快そうに
微笑みながら
満足そうにながめていた

二〇〇五年総選挙が終わった後に



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